第2章 日課

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私の顔が強張ったのが分かったのか、お面の人はことさら明るい声色を出したような気がした。 「あ、大丈夫。ここの部活の人間ってわけじゃないよ」 「……」 「俺もよくここら辺通るんだよね。放課後の暇つぶしでさ。ここを散歩コースに入れて数日経つんだけど、頻繁にこの木陰から君が見え隠れしてるから何やってんのかなって思って」 毎日通っていたことが仇になった。まさか見られてるなんて、思わなかった! 自分の影に徹するスキルがまだ足りなかったのか! ぐぐ、っと下唇を噛んでお面の人を睨むように見る。 明るい声色だけど、表情が見えないから何とも言えない。そもそもなんでウサギのお面をして散歩しているのかが謎。 でも、茶化した風でもなく本当に疑問に思っているみたいで、少し肩の力を抜いた。 この人、上級生か下級生か同学年かも分からないけど。なんとなく滲み出る雰囲気で悪い人ではなさそうな気がした。なんとなく直感でだけど。 「……見てるんです、さっき指さした人」 ぽつりと言うと、首を傾げられる。 「なんで?」 「見てるだけで幸せって思ったことないですか。明日からの元気の源になると言いますか……心がぽかぽかする、そんな感じの気持ちになるんです」 ストレッチを終えると、テニスコートの周りを走り出す。ここの部活の日課だ。 後方を走っている彼を見つめながら、本当にそんな気持ちになる。 ……あったかくて元気が出るんだ。 「それって、好きってこと?」 率直な言葉に、心臓が飛び跳ねる。 「おっ、図星?」 お面の向こうでニヤッと笑ってそうな声に「ち、違います!」と慌てて声を張り上げた。 「やっ、まあ、そういう感情に似ているかもしれません……、そういう気持ちはまったくないことはないですけど、憧れのような好きに近いと言いますか……」 「……ただの憧れには見えないけど」 「……」 お面の人の言葉で顔に熱が集まる。 「顔赤くなったね」と楽しそうに言われたが、反論する言葉が出てこない。 好きなのだ、異性としての好きなのか自分でもよく分からないけど……純粋に好きなのだ。  
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