第2章 日課

3/9
前へ
/12ページ
次へ
……彼と出会ったのは1年生の頃だった。 季節は6月。まだ高校の空気に慣れていなかった私は慣れない委員会を終えて、外で待っているという友達を探し回っていた。野球部のグランドの横を通り、陸上部のグランドを通り、サッカー部の横を通り……。 うろうろと探し回っても見つからない。結局学校の中に入ったんだろうか……と携帯を持ち連絡を取ろうとした。その瞬間だった。 自分の顔の真横を勢いよく何かが通る。左側の髪の毛がその風でぶわっと持ち上がるくらいに素早かった。あまりの一瞬に驚きで息を詰めていると『わりー、それ取って~』と間の抜けた声が聞こえ、振り向くとサッカー部の人たちがいる。 それを見てようやく頭が理解しようと働き出す。 ああ、サッカーボールが私の横を通過したんだ、と。 風が通り過ぎたところを目で追うと、白黒のサッカーボールが転がっている。 『あ、はい』 ハッとして拾おうと近づくと、私が拾う直前で横から手が出てきたのだ。全然気付いてなかったからギョッとしてしまった。 その手はボールをスッと取り、上にあげる。私もボールを追うように視線を上げた。目の前には綺麗なまん丸い二重の瞳が瞬いていて、一瞬で綺麗だと目を奪われた。 その綺麗な瞳の主は深くため息を吐いて、『気を付けてくださいよー!』とボールをサッカー部の人たちに蹴って返す。 遠くから『サンキュー』と聞こえたが、その声に顔を向けている余裕は私にはなかった。 『す、すみません。ありがとうございます』 自分の代わりにボールを取ってくれた相手にお礼を言うと、その言葉に彼は目をぱちぱちと動かした。呆れ気味だった表情を、すぐに崩して少しあどけない笑みを向けられる。 『いいえ~、君も1年生だよね。俺もだよ。つーか、サッカー部の人たちもっと真面目に謝って欲しいよね』 いくら先輩だからって……と、ぶすくれた表情を浮かべる彼に『はい、1年生です』とワンテンポ遅れた返事をする。同い年なんだ……と少し頬が熱くなり、サッカー部の先輩方への怒りなどまったく沸き起こる気分ではない。 『怪我はないみたいだから、良かったけど……って、あ!』 顔を覗き込まれて、大きな声を出されるものだからビクッと肩が跳ねる。 え、なに? 不安に思い、眉を八の字にしていると『ここ赤くなってる』と頬を指さされ、ハッとした。    
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

82人が本棚に入れています
本棚に追加