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ふたりが身に纏(マト)う気配は、実体のない影であるかのように静けさを感じさせ、そのせいか、まるで異世界から降臨してきたような独特な違和感がありつつも、あまり人の目に入っていない。
若い恋人たちのけんかはずっと続いている。
どうやら、彼の浮気が原因らしい。
自分たちの会話が盗み聞きされているとも知らず、けんかに夢中になっている。
傍から見ても、口論していることは見てとれるが、噴水を挟んで彼らと反対側にいる人間がその会話を耳にすることは不可能だ。
水の音に掻き消されて聞こえるはずがない。
恋人たちも、少女と少年の存在に気づいているとしても、この距離で聞き盗られているとは思ってもいない。
負の意味で、互いのことしか眼中にない恋人たちだ。
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