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「そうだな。人間の欲望は厄介なもんだよ。後先を考えない自己中心的な生き物、つまりは自然の天敵でしかない」
「だから考えてしまう。本当に自然に逆らっていいのか」
「やめる?」
晃実は即答せず、土の下敷きになっているだろう人々に意識を集中させた。
助けて……だれか……。
う……息……息ができない……。
暗い……どいて……わたしの上から……どいて!
だれにともなく向けられた苦しみによる心の叫びは、地獄からの声のように聞こえる。
いまからすることは、明らかに自然に、あるいは神という存在があるとするならば、その神に対する冒涜(ボウトク)だ。
畏怖(イフ)の念を抱かずにはいられない。
人の死を尊重するならば、ふたりがその時間を決めるべきものではない。
だからこそ、これまで助けられるのに助けてこなかった。
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