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彼がふらりと意味もなく庭園内を歩き回っていると、
遠くを競歩のような早歩きで過ぎようとする美麗な青年が現れた。
彼がいる庭園は、
低いが一般男性の首下までを隠す高さの茂みに囲まれているため、
あちらからは死角になっている。
彼の存在に気付かず、
青年は整った顔を歪めて愚痴をつぶやいていた。
彼は花も恥じらうような優しい笑みを浮かべてそんな青年を見ている。
「ったく……なんで私がこんな中途半端な時期の転校生なんてものを迎えに行かなければならないんですか。
どうせ理事長の甥御さんとやらでしょうが、面倒なものです」
……相変わらず、素が敬語。
一年の頃は会長補佐でガチガチに緊張してたくせに、
自分で補佐制度消して副会長を庶務とおんなじような低いところから会長補佐兼裏ボス的立ち位置まで引き上げるとは凄い力量だよなあー。
あの頃俺何してたっけ、ボクシング三昧だったような気がする。
「んおぉ…」
……モッサァ、って感じの染めた黒髪っぽいカツラを頭に乗っけて、
ぐるぐる分厚い丸メガネがずり落ちそうになるのを手で押さえてる。
健康的で、小柄そうだけど形が綺麗なパーツごとの筋肉。
首を境に上下不一致な生命体。
「転校生かー」
あっそう。
男は興味無さげにその場を去って行く。
すでに男の目は建物の向こう側へ行こうとする黒猫に移っていた。
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