第1章 再会

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いくら節電のご時世だからって、 こんな時間だっていうのに、 頭上の蛍光灯の灯りだけで仕事しろなんて、ヒドクないですか? ブラインドの隙間から覗く空は、もう真っ暗だ。 「会社、辞めよっかなぁ…」 ついつい、そんな独り言も言いたくなる。 誰もいなくなったフロアで一人、黙々と残業中の私は、 体力的にも精神的にも、限界に近づいていた。 先週までは、毎日定時で上がる生活が当たり前だったのに、 今週はひたすら残業の毎日。 色々なことが変わり過ぎて、心がついていけないでいた。 そもそもの始まりは、ひと月前、 社内公募の数が足りないからと、ノルマで書いた企画がまさかの採用。 そのせいで、急きょ、企画営業部への異動が決まった。 入社以来、総務一筋できた私にとって、 企画営業部の仕事は、わからないことばかり。 また一から仕事覚えなきゃいけないなんて…。 でも、新人ではないってとこが、また複雑で、 周りに色々聞くのも気が引けて…。 自分で何とかしようとするんだけど、それもなかなかうまくいかない。 そういう葛藤もあって、 ここのところずっと、残業が続いていた。 今日はもう帰ろうかな…。 帰り支度を始めた頃、机の上の携帯電話が短く鳴った。 メールの着信音だ。 送信元は、中学時代の親友の亜佐美。 何だろ? 久しぶりにゴハンのお誘いかな? 『来月、同窓会、やります!』 同窓会!? 『絶対出席してよね!人数少ないと盛り上がらないんだから!』 行かない、とかはナシだよね、やっぱ…。 私が欠席したい理由、亜佐美も知ってるはずなんだけど。 もう10年以上も前の話だし、行くしかない、かぁ…。 葛藤の末、返信メールを送る。 それにしてもタイミング悪いなぁ。 休日出勤はかろうじて免れているけど、夜遅くまでの残業は、もはや日常。 なので、当日休みが取れるかどうかは、正直、あやしくて。 ドタキャンしたら、怒るだろうし。 そう思いながらも、そうなればいいとも思っていた。 杉崎花音、29歳の冬の出来事。
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