序章

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ヴィアンナはドフィネー司教区を統括する神父の娘だ。 当然父様とも繋がりの深いドフィネー司教は小さいころに俺にヴィアンナを紹介したし、1つしか年が違わない俺とヴィアンナは両親が難しい話をしてる間中ずっと遊んでいた。 だから俺もヴィアンナのことならよく知ってるつもりだし、ヴィアンナもそうだろう。気丈で周旋の才に長けるヴィアンナは俺の年下の姉であり、また家族以外でもっとも特別だった。 そういう長い付き合いからいえば、ヴィアンナがこのひまわりという花に興味を持ったのには何の疑問もない。 高く伸びる茎、大きな黄色の花と、時間を通して姿を変える面妖さ。 天にちかいもの、不思議だが頼りがいのある凛としたものが好きな、少し華奢な少女なのだ。 「よく咲いてるな」俺は一面のひまわり畑を見てつぶやいた。 スペインから持ち込まれたもので、とりあえず実験的に植えてみるという話だったが、一本一本が高く大きいのでどこまでも続いて見える。 「ええ、私たちの姿なんてすっぽり隠れてしまうわ」 「これならジョルジュもやり過ごせそうだ。花も大きいし収穫も期待できるかもしれないな」俺はひまわりの一本に手を伸ばした。 「こんなにきれいな花から油を絞ってしまうなんてかわいそう」ヴィアンナはその手を細目で突き刺した。 俺がそのまま折ってしまうと思ったかもしれない。 「花が散った後だよ」俺は手を下ろす。代わりにヴィアンナが花弁をなでるように触れた。 「花が散ったらこの茎もしおれてしまうのかしら」 「どうかなぁ」 ひまわり畑をがさがさと分け入っていく。
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