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「ナティエ」ヴィアンナはひまわり畑の真ん中で立ち止まった。
一面の黄色。どれも俺達の背丈より高い。
「どうした?」
「聡明なるナティエさまは、今なんで領主様に呼ばれてるのか知ってるんじゃないかしら?」
「ヴィアンナは知ってるのか?」
「知らないわ」こちらを振り返らない。
「じゃあ何で知ってると思うんだ?」
「なんとなくよ。ナティエの様子見てたら分かるわ」
「ヴィアンナには敵わないな」
ひまわり畑は風が通ってもひまわり一本一本はさほど揺れなかった。
ヴィアンナはこちらを振り返った。
「我が王国は、もうすぐ神聖ローマ帝国と戦争する」俺はもう一度口を開いた。
出来るだけ領主然とした言い方をしたつもり。
「いや、もしかしたらもうはじめてるかもしれない」
「そう……」ヴィアンナは顔を伏せた。
「カトリックの忠実な僕のはずのルイ陛下が、まさか異端者の側にたって戦争するなんて……」
なんとも司教の娘らしい意見だった。
「もう戦争は信仰のためじゃない、政治の駆け引きのためのものだ」
「だからこそドフィネーの民は信仰のために生きるべきよ」
「そうだな」
「でも、その話だけならわざわざナティエを大至急で呼び出す必要なんて」
「俺も行くんだ」
「え?」ヴィアンナの目が俺を突き刺した
「きっと俺も出兵しろって話だよ。朝、馬を何頭も準備してるのを見たんだ。俺の分もあった。」
「そんな、領主の跡継ぎが出兵なんて」突き刺した目は、しかしゆらゆらと揺れていた。
「今の王国で地方領主の地位なんてそんなもんさ。仮に俺が戦争に行かないとしても、変なことをしないようにパリで軟禁されるに決まってる」その目に、俺は動揺していた。
「こんな末端領地で何が変なことよ!」ヴィアンナは声を荒げた。
「俺はこのドフィネ領の次期領主だ、この土地を守るのが仕事だ」
「そのために死に行けっていうの?」
ヴィアンナの目には涙が浮かんでいた。
落ち始めた初夏の太陽はヴィアンナの修道服と華奢な体を照らす。
「俺は死なない。なんなら途中で逃げ出してでも生き残るさ」
「柄にもないくせに」
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