2人が本棚に入れています
本棚に追加
麻真美の家は掃除が行き届いていた。廊下を歩いていると、奥のほうから、麻真美ママの声が聞こえた。誰かと話しているみたいだ。
「ええ、それでお願いします……はい、大丈夫です」
麻真美にも聞こえたようで、鼻の穴を膨らませて自慢してくれた。
「母さんね、今度本出すんだって」
「すごいね!」
きっと料理本だろうな。中学の頃、来たくもない麻真美のバースデーパーティーで振る舞われた麻真美ママのお料理は絶品だった。味も見た目も完璧で、わたし達はプロの料理人だと思ったほど。
キッチンに着いたわたしは、手土産を差し出した。
少し遠いところにある、洋菓子店のケーキ。味は美味しいし、十二星座をイメージした見た目が個性的でかわいい事で有名だ。麻真美の星座と店で一番人気のおとめ座のケーキを持っていった。
ちなみに、わたしの星座はない。
「うっわあ! かぁわいーい!」
キッチンで箱を開いた麻真美は、思った通りの歓声を上げた。ところが、ポケットから取り出したのは、予想に反してガラケーだった。
「スマホじゃないんだ?」
「なに、悪い?」
ムッとした顔をされた。まずい。
「ちょっと意外だっただけ。麻真美ちゃんって、最新のものはなんでも使いこなしそうだから。パソコンでブログもやってそうだし」
「ブログ、やっているよ」
バカしたような笑みを浮かべ、麻真美はガラケーをケーキに向けた。
「ケータイでだって、ブログもネットも出来るんだから。パソコンでしかできないわけないじゃん」
「へえ、すごいね! ブログやっているんだ!」
せっかく褒めてあげたのに、麻真美はケーキのアングルに集中していて、こっちを見なかった。
「やっているよー。パソコンでやるより操作簡単だし、みんなオシャレだし」
「パソコンって、そんなに難しい?」
「細かい操作が多くってうざい」
思い切って、もう少し踏み込んでみる。
「ブログでも絵は描けるの?」
「んー」
麻真美はシャッターを切ると、ようやくわたしのほうを見た。
最初のコメントを投稿しよう!