いやいや、ハンプティ・ダンプティって! 

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 ある朝、僕は目が覚めると、自分がハンプティ・ダンプティになっていることに気付いた。 「って……ええ!? 嘘でしょ、何これ!」  僕は鏡の前に立って叫び、自分の体をまじまじと見る。  ツルンとして光沢を帯びた頭、ぽっこりと湾曲する腹、まさに卵型の体形。表面には目、口、鼻がくっついていて、肌は真っ白。細い四肢がにょっきりと生えている。体の半分下はタキシード姿となっていて、赤い蝶ネクタイをしている。  うん、間違いないね。これは卵人間、ハンプティ・ダンプティだ。童謡『マザー・グース』や児童小説『鏡の国のアリス』に出てくるキャラクター。『鏡の国のアリス』では、迷い込んできたアリスに、上から目線で『言葉』についての問答を繰り広げるんだよね。  解説してる場合じゃない! 「えーと……どうしてこんなことになったんだ?」  僕は直近の記憶を辿ってみる。  確か、高校の文化祭の準備をしていたんだ。うちのクラスは、ちょっと変わり種の店をやろうということで、色々アイデアを出し合った結果、卵丼屋をやることになった。金もかからないし、作り方も簡単だ。皆で一生懸命、仕入れや店内のレイアウトなどについて話し合った。でも、人付き合いの苦手な僕は、クラスメイトと交わる仕事を振られないように、なるべく空気のように存在感を殺して、やり過ごそうとした。それで与えられた仕事が、窓に紙やテープを貼って、飾りつけをするという簡単なものだった。  僕は文化祭前日、その楽な仕事を淡々とこなした。でも、窓の外側に飾りつけをしようとした時だった。桟に跨って手を伸ばすと、バランスを崩して、五階の高さから……。  死んだのかな、僕。  事切れて、別の世界の、別の生物に生まれ変わったってこと? あ、何か聞いたことある。えーと、何だっけ、こういうの。魔界転生じゃなくて…異世界輪廻でもなくて…そうだ、異世界転生。これは、そういうことなのか? まさか、そうなのか?  まるで実感がわかない。そりゃそうだよね、卵丼屋の雑用してたら校舎から落ちて、卵人間に転生したなんて、受け入れようがない。  それにしても、この手のやつって、案内人みたいな人がいて、色々説明してくれるのが定石じゃなかったっけ? しかも可愛い天使とか女神みたいなの。僕にはいないんですか、そういうの?   それはそうと、ここはどこなんだ。  
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