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レンガの壁に板張りの床。僕が寝ていたベッドの脇には、ロッキングチェアがあって、レトロな雰囲気を醸し出している。
窓の外を見ると、木骨組で白い塀の建物が立ち並んでいて、石畳の通りを大勢の人が行き交っている。通りは露店が軒を連ね、マーケットになっている。遠くには深緑の森が広がっていて、まるでドイツとかオーストリアとか、ヨーロッパのそっちの方を思わせる景色だ。
その時、ドアの外から、人が近づいてくる足音がした。
僕はぎょっとした。こんな姿見られたら、大変なことになる。
とっさにどこか隠れる場所を探す。クローゼットを開けて中に隠れようとしたが、卵型のボリューミーな体は、全然収納しきれない。
ドアが開けられてしまった。
中に入って来た女の子は、僕のことを見るなり、悲鳴を上げて卒倒する、ということはなかった。
「あれ? ハンプティ・ダンプティがいる」
きょとんとして呟いた。
僕はなんて言えばいいか分からず、黙り込んでしまった。
「おかしいなあ、ここの部屋、昨日は空いてたと思ったんだけど」
女の子は掃除道具を床に置く。
「まあいいや。お客さん、食堂に行って朝ご飯でも食べててくれない? この部屋、掃除したいんだ。ちゃっちゃとやっちゃうからさ」
「は、はあ……」
「場所分る? 一階にあるから。階段下りたら真っ直ぐ行って、突き当りを右」
ここは宿屋なのかな? どうしよう、一旦食堂へ行こうか。人にこの体を見られると騒ぎになりそうだけど。でも、この子は大して驚かなかったな、大丈夫なのかも。いやいや、でもこの体をたくさんの人に見られるのは、やっぱり抵抗あるなあ。てゆーか、ホント何なんだろう、この状況。
僕が頭の中で色々と考えを巡らせて、しばらく動かないでいると、彼女が背中を押してきた。
「分かんない? じゃあ案内するよ」
僕が食堂の場所を理解できず、悩んでいるのだと思ったらしい。
廊下へ出ると、早歩きで進む彼女について行く。丸い体から生えている脚で歩くのは、重心のバランスを保つのが難しい。前や後ろに倒れそうになってしまう。
「それにしても、ハンプティ・ダンプティのお客さんなんて、何年ぶりだろう。滅多に見ないもんなあ」
「そ、そうなんですか……?」
「うん、だって珍しい種族じゃない」
彼女はにっこりと笑いながら言う。
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