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私はなんとなく手で弁当箱を隠すようにして、食事をしていると、店長が「あっそうだ胡桃ちゃん、はい」と言って、チョコレートの箱を差し出した。
「え?」
「これ、コンビニの抽選で当たったんだ。ほら、今やってるの知らない?」
「知ってますけど……私がいただいていいんですか?」
「うん、僕食べないしね」
側のコンビニでは、時々一定以上の金額を購入するとくじができ、当たると品物をもらえるイベントをやっている。
彼の手にあるのは私が食べてみたかった期間限定のチョコレートだった。それはCMで流れてて食べてみたいなと思っていたものの、少し高くて手が出せないでいた。
「はい」
店長は私にチョコレートの箱を差し出す。
「あ、ありがとうございます」
渡された際に彼と触れる手に、私の胸が揺れる。
「留実ちゃんと食べてもいいし」
「え、あ……」
しかし、すぐに落ち込んでしまう。
私だけにくれたものではないとわかり、顔にでてはいないと思うが、声はしぼんだ。
「あぁでもあの子今日休憩できないだろうし、胡桃ちゃんが食べな」
「あ、はい」
私の声はやや明るくなったかもしれない。
「内緒ね」
それは、落ちた気持ちが一気に上がったせい。
今日は留実ちゃんの休憩がとれないため、私だけのものになったのだが、それでも“内緒”と言われて胸に嬉しさが広がる。
私は「はい」と、はにかんでみせた。
すると、店長は「そういえば胡桃ちゃんのうけた予約の時間も17時だったよね」と言った。
もう彼の頭は仕事のことに切り替わっている。
「あっ、はい」
「作ってて正解だったね」
「そうですよね、よかったです」
彼の 頭の隅でいいから私のことも入れて欲しい。
そんな思いを密かに持ちつつ、私は店長をそっと見つめた。
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