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木製のリーフ型をした壁掛け時計が、午後12時を指す頃、きっとランチに行くのだろう、小ぶりのバッグを持ったOLらや、手ぶらのサラリーマンらが、花屋“Eiry”の外を通りすぎるのが見えた。
私は、毎日ほぼこの時間にやってくる花材屋の村野さんが店の前に車を停めたのが見えたので、外へ出た。
「お疲れさま、胡桃ちゃん。店長いる?」
村野さんにそう言われたため、私は「お疲れさまです。はい、お待ちください」と言って、店内へ駆け戻る。
それから店長の元へ駆け寄り、「店長、村野さんです」と、村野さんが来たことを教えた。
「あぁ、ありがとう今行く」
「はい」
この店の店長である萩原香(はぎはら かおる)が、爽やかな笑顔を私に向けた。
「ごめん胡桃ちゃんこれ、あと回りを隠してもらえる?全部ルスカスでいいよ。ラッピングまでお願い」
「はい、わかりました」
私、深田胡桃(ふかだ くるみ)は彼が作っていた注文ぶんのアレンジ花の続きを引き受ける。
アレンジ花とはバスケットに花の吸水用スポンジであるオアシスを詰め、生花をいけるもの。
それは、毎日いくつもの注文が入る。
私はそのオアシスを見えなくするため、店長から指示された、花が葉の中心に咲く変わった葉物、マルバルスカスを回りに挿す。
それを、挿し終えるとアレンジ台の上でバスケットを一回しした。
「さすがだなぁ、店長」
思わず呟いてしまうのは、店長の作品が素晴らしいため。彼が花を手にすると、大きさは関わらず花束でもアレンジ花でも素敵に変身する。
私はまだまだ届かない。
彼は花屋で勤める私の目標でいて、憧れの人でもある。
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