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おごられることに慣れてない私はカフェバーを出た後「でも……」と、言って戸惑ったのだが、須賀原さんに頭を撫でられた。
「誕生日って知ってたら、プレゼントちゃんとしたの用意したのに。ごめんね」
謝られることは一つもない。
私と彼の関係はお客様と店員でしかないうえ、たまたま偶然が重なっただけなのだ。
「いえ、そんな……」
「来年はきちんと祝わせてね」
須賀原さんの顔が私を覗いて、距離が近くなる。
それにドキッとしたのは彼の端正な顔に胸が揺れたからだ。
「え?」
「だから今年はこれで」
「えっと……」
これは友達として受け取っていいのだろうか。
「胡桃ちゃん帰ろうか」
「あっ、はい。ごちそうさまでした」
「いいえ」
彼は乗せたままでいた手で私をもう一度撫でた。
注文書越しに須賀原さんのことを考えていると、店長の声がそれを割った。
「胡桃ちゃん、ごめん……」
「あっはい」
「ミニブーケを頼まれてるんだ。お急ぎらしいから、作ってもらえる?」
「わかりました」
治人さんのうけた注文の時間にはまだ余裕がある。
店長は別の注文にかかって手が離せないため、私は店長が注文をうけたお客様へ視線を向けた。
「あ……」
「え、胡桃ちゃん」
「蘭子ちゃん、だよね?」
注文書をボードに挟み、振り向き視線を上げた先には高校のときに同じクラスだった澤田蘭子(さわだ らんこ)が立っていた。
※澤田蘭子は現在修正中の“あなただけでも”のヒロインとして登場しております。
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