スイトピー

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すると、私が見つめる男性も「あれ……」と言った。 彼は同時に目を大きくするので、驚いているのがわかる。 「え、何?胡桃知り合い?」 みなみは私と男性を交互に見て、戸惑う様子でいる。 すると男性が「花屋の子だよね?」と言った。 「は、はい……」 彼はお客様だった。 まさかこんなところで会うなんて、気まず過ぎる。 「こんばんは」 それでも彼のほうはすぐに、気持ちを切り替えたように爽やかに笑うが、私はそうでない。 「こ、こんばんは……」と、返す声はとても小さかった。 「え、何、須賀原さんと胡桃知り合いなの?」 みなみだって驚いている。私は遠慮気味に「う、うん……」と口した。 忘れていたが、彼の名はたしかに須賀原、だった。 覚えにくい名に覚えがある。 「えぇ、すごい偶然じゃん」 私はみなみを見つめ、首を縦に振った。 「うん……」 これはあって欲しくなかった偶然である。私は息を小さく吐く。 しかしすぐに須賀原さんに声をかけられた。 「本当に偶然だね、驚いたよ」 「私もです……」 私はみなみから視線を彼に変えた。 すると須賀原さんは「この間はありがとう。母、綺麗だって喜んだよ」と言った。 「え、そうなんですか。よかったです、ありがとうございました」 お客様である彼に、感想を言ってもらうことはありがたい。 それには笑顔になってしまうが、彼が「ヒマワリも飾ってるよ」と言ったのには、笑顔が固まってしまった。 「あ……」 須賀原さんはあのヒマワリを自宅に飾ってくれているよう。 店の花を飾ってもらえるのは嬉しいことだが、失敗作を飾られているのだと思うと、素直に喜べないところだ。 「まだ持ってるよ、長持ちするんだね」 「はい……。短いと水がよくあがるので……」 切り花は茎が短いほうが持ちがいい。 それにヒマワリは茎がしっかりしているので、わりと持ちがいいほうだ。 「へぇ、それでか。花なんて滅多に飾らないけどいいもんだね。また買いに行くよ」 「え、あ、ありがとうございます」 複雑な気持ちを抱え私はそう言った。
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