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店長には同じ服装のことも、顔がいつもより腫れぼったいことも触れられぬまま、時刻は昼の十二時になる。
壁掛け時計がぴたりと上に重なったとき、お客様が来店した。
私より少し年上だと思われる、綺麗で華やかな女性だった。
一瞬バニラのような香りがして、彼女の匂いだとすぐにわかった。
「いらっしゃいませ」
「須賀原です。花束を注文した……」
「あ、はい。出来上がっております」
彼女は左指に指輪をつけており、既婚者であると失礼にも観察してしまった。
「こちらです、よろしいですか?」
「えぇ、とても綺麗」
彼女が笑うと周りまでふんわりとした雰囲気がまとうよう。
市場から帰ってきたばかりの治人さんなんて、目が釘付けだ。
男って単純だ、と思いながら会計をすると、店に小さな女の子と中年の女性が入って来て、彼女に「終わった?」と、聞いてきた。
「えぇ、これでどうかしら?」
中年の女性は「いいんじゃない」と、言って女の子にそれを見せる。
「どう?優ちゃん」
「きれい……」
優ちゃんと聞くと、ふと彼の名を思い出してしまう。
須賀原さんの名は優斗だった。
もしかして彼の姉だろうか……
「パパよろこびそう」
「そうね」
しかし彼の姉だとしたら、須賀原という名字ではおかしい気がする。
思わず「パパの誕生日なの?」と、口を挟んでしまった。
「うん」
女の子は嬉しそうに笑った。
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