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女の子の私を見つめる目がどことなく彼に似て見える。
「パパね、遠くに行ってて会えないの」
「遠く?お仕事なの?」
「そう。でも今日は帰ってくるから会えるんだ」
「そう、よかったね」
須賀原様は「すみません、お仕事のお邪魔をして」と、申し訳なさそうに言った。
私は慌てて首を横に振り、花束を渡す。
美人なうえにいい人だ。
須賀原という名字は美形でいい人が多いのかもしれない。
そんなことを思いつつ、私は三人を見送った。
「胡桃ちゃんお疲れ」
「お疲れ様です治人さん」
須賀原様に終始見とれていた治人さんは、すぐに私に寄ってきて、須賀原様の注文書を手にした。
「治人さん、奥様に言いつけますよ」
「うわ、それはやめてくれよ。ただ美人だなぁと思っただけだよ」
蘭子ちゃんもお気に入りらしいし、ミーハーである。
私は少し鋭く治人さんを睨んだ。
「胡桃ちゃんも美人、美人」
それでも治人さんは私が失恋したのを知っているため、わざと明るくしてくれている気がする。なぜなら治人さんは私の顔を見たとき、まずハッとした顔をしたからだ。
そこに店長が「どうしたの?」と、私たちの間に割った。
「店長、治人さんまた目がハートになってたんですよ」
「え、そうなの?」
「こら、胡桃ちゃん」
「だって本当のことじゃないですか」
店長はいつもと変わらず明るい笑顔を向ける。
店長は私の服装や顔のことをどう思っているのだろう。
もしかすると、気付いていないかもしれない。
なんて惨めな恋心だろう。
私は切ない胸中を悟られないよう、笑顔を向けた。
「店長、花おろします?」
「あぁ、うんお願い」
「わかりました」
治人さんが競ってきた花をおろす作業に没頭すれば、しばらく考えずにすみそう。そう思い、外に足を向けた。
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