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ボールはガーターレーンへ入ってしまった。
当たり前だと思う。
それでも優斗君は、「残念。まだもう一回できるよ」と、優しく言って私の頭に手を乗せた。
その体温は胸まで伝わるよう。
どうしよう……
ボウリングが、こんなに心臓に悪いスポーツだとは知らなかった。
「……はい」
優斗君は私から離れると、ボールを取り持ってきてくれた。
私はぼんやりと彼を見つめる。
「大丈夫?できそう?一緒に投げてみよっか?」
「……え?」
もしかすると、彼は私がショックで立ちつくしていると思ったのかもしれない。
さらに優しい声をかけられる。
「一緒に投げてみたら、なんとなくわかるかも……」
すると、彼はまた私のすぐ後ろに立った。
そして、同じ体勢で私を包み、「ほら、投げるよ」と、言った。
身体が一気に熱を持つ。
それでも気持ちはピンのほうへ集中しようと、前を見た。
胸はひどく音を立てている。
彼が「せーの」と、言ったとき、ボールは一度目より勢いよく離れた。
私の意識はボールへ向かう。
「いい感じ、けっこう倒れそう」
優斗君がそう言ったと同時、すべてのピンが倒れた。
「やったっ」
それは私の声か、彼の声か……
それよりも、私の身体は彼に先ほどよりも、包まれた。
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