ラズベリー

11/19
前へ
/37ページ
次へ
「ちょっ……」 優斗君に抱き寄せられたと理解したと同時、私は焦った。 彼は感情が高まってしまったのだろうか。 「ごめん」と、言って、すぐに離れたものの、まだ近い距離にいる。 「よかったね」 「は、はい。優斗君のおかげです……」 抱き寄せた意識は彼にはないはず。 私だけ引きずるわけにはいかない。 「そんなことないよ、俺は力は入れてないよ」 「私もそんなに……」 無意識に、力が入っていたのかもしれない。 もしそうだとしたら、恥ずかしい……かもしれない。 「つ、次は優斗君の番ですよ」 もう、これ以上この空気をまとわせたくない。 私は彼から離れると、座っていた場所へ戻った。 「心臓に悪い……」 小さく漏れた私の声は、場内の騒音に消える。 好きな人でないのに、こんなに胸がドキドキするものなのだろうか。 私は優斗君へ視線を向ける。 彼は再び、ボールを投げようとしていた。 立ち姿はカッコよくて、さらに私の胸を苦しめるようだ。 あの身体に抱き締められたんだよね…… 思い返すと、身体も思い出すように火照りだす。 視線を逸らそうと、私は反対奥を見た。 そこにははる君が、私を見ていて、遠目だが視線が重なった気がした。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

176人が本棚に入れています
本棚に追加