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「ちょっ……」
優斗君に抱き寄せられたと理解したと同時、私は焦った。
彼は感情が高まってしまったのだろうか。
「ごめん」と、言って、すぐに離れたものの、まだ近い距離にいる。
「よかったね」
「は、はい。優斗君のおかげです……」
抱き寄せた意識は彼にはないはず。
私だけ引きずるわけにはいかない。
「そんなことないよ、俺は力は入れてないよ」
「私もそんなに……」
無意識に、力が入っていたのかもしれない。
もしそうだとしたら、恥ずかしい……かもしれない。
「つ、次は優斗君の番ですよ」
もう、これ以上この空気をまとわせたくない。
私は彼から離れると、座っていた場所へ戻った。
「心臓に悪い……」
小さく漏れた私の声は、場内の騒音に消える。
好きな人でないのに、こんなに胸がドキドキするものなのだろうか。
私は優斗君へ視線を向ける。
彼は再び、ボールを投げようとしていた。
立ち姿はカッコよくて、さらに私の胸を苦しめるようだ。
あの身体に抱き締められたんだよね……
思い返すと、身体も思い出すように火照りだす。
視線を逸らそうと、私は反対奥を見た。
そこにははる君が、私を見ていて、遠目だが視線が重なった気がした。
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