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私たちの間に沈黙が流れる。
周りはざわついているのに、不思議とここだけは静かに感じた。
「優斗君……」
優斗君と視線が強く絡んだ。
なんとなく、今、彼に伝えたくなった。
「はる君は、元カレでしたけど、心から彼氏と呼べる存在ではなかったんです……」
「……え?」
はる君との恋愛は例えるならばまるで“ラズベリー”のようだった。
赤いラズベリーは触れるまでは綺麗だが、棘があり甘さより刺すようなすっぱさが際立つ。
その花言葉は“深い後悔”である。
浮気されたと知ったとき、どうして付き合ったのだろうと、激しく後悔した。
しかし落ち着くと、私が“彼氏”と、いう存在に憧れていただけだと、気づいた。
だから、ひどい自分をも、責めた。
甘くない、初めての恋愛。
見栄っ張りの、私の幼い恋愛だ。
「私は彼氏が欲しくて、彼と付き合っただけだったから……」
私は優斗君から視線を外し、うつむいた。
「それは……好きじゃなかったってこと?」
「すごくは……はい」
ひどい女だと思っているかもしれない。
でも、伝えた。
「そう」
しかし、彼の声は先ほどより苦しそうでない。
そのためか、私はさらに思いをぶつけた。
「私、今まで彼としか付き合ったことがないんです。ちゃんと恋愛したことがないんです。だから、今度付き合う人はちゃんと好きじゃないとダメだと思うんです……」
私はやはり店長を想うことしかできないのかもしれない。
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