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「あ、うん。よく……」
覚えてたね、という言葉は飲み込んだ。
代わりに「ありがとうね。先に、買うね」と、言って私は優斗君を見上げた。
すると、優斗君は私を見つめて、「胡桃はミルクティ?」と、言った。
彼の家で一番に手にしたものだったため、わかったのだろうか。
彼の表情は、穏やかに見える。
私は密かに胸を撫で下ろし、首を縦に振った。
ガコンと、音を立ててペットボトルが落ちると、優斗君は素早く取りだし、渡してくれた。
「はい」
「あ、はい」
優斗君は小さく笑むと、すぐに無糖の珈琲のボタンを押した。
きっと、はる君を気にして急いで選んだ、そんな気がした。
「ありがとう」
私は、はる君に再び視線を向ける。
「ううん、いいよ。またね」
はる君は、口元に笑みを浮かべるも、少し寂しそうだった。
私の心にも、少し移りそう……
しかしすぐ、「胡桃、行こう」と、優斗君に手をとられた。
優斗君も「ありがとう」と、はる君に小さく頭を下げたあと、その場から私を連れて離れた。
握られた手が熱い。
私は無言の彼を見つめながら歩いた。
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