ラズベリー

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彼は「ありがとう」と、言って私が触れたばかりのペットボトルの口の部分を、唇に合わせた。 優斗君の顔が傾いて、喉仏がゆっくり上下する。 その姿は、男性なのに色気がある。 「甘いね、美味しい。ありがとう」 「い、いえ……」 彼の顔が再び私を見つめた。 なんだか、観察していたことが、恥ずかしい。 「昔から、好きなんだね。それ……」 「え、あぁ……はい」 しかし、話が逆戻りしたため、私の胸はまた違うドキドキがやってくる。 「学校の帰り道、いつもこれを飲んでいたので……」「……そっか」 「はい」 私とはる君には、確実に時間を共有した過去がある。それは、変えられない。 だから、もし優斗君が気にしていてもどうしようもできない。 ただ、優斗君の心情を思うと、心が痛い。 でも、なぜ、私は心が痛むのだろう。 「美味しいもんね。俺もよく飲んでた」 「一緒ですね……」 「うん。あと、一口飲んでいい?」 「どうぞ」 彼はもう一度、口をつける。 それは、まるで私の記憶を上書きしているように見えた。
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