176人が本棚に入れています
本棚に追加
彼は「ありがとう」と、言って私が触れたばかりのペットボトルの口の部分を、唇に合わせた。
優斗君の顔が傾いて、喉仏がゆっくり上下する。
その姿は、男性なのに色気がある。
「甘いね、美味しい。ありがとう」
「い、いえ……」
彼の顔が再び私を見つめた。
なんだか、観察していたことが、恥ずかしい。
「昔から、好きなんだね。それ……」
「え、あぁ……はい」
しかし、話が逆戻りしたため、私の胸はまた違うドキドキがやってくる。
「学校の帰り道、いつもこれを飲んでいたので……」「……そっか」
「はい」
私とはる君には、確実に時間を共有した過去がある。それは、変えられない。
だから、もし優斗君が気にしていてもどうしようもできない。
ただ、優斗君の心情を思うと、心が痛い。
でも、なぜ、私は心が痛むのだろう。
「美味しいもんね。俺もよく飲んでた」
「一緒ですね……」
「うん。あと、一口飲んでいい?」
「どうぞ」
彼はもう一度、口をつける。
それは、まるで私の記憶を上書きしているように見えた。
最初のコメントを投稿しよう!