オレンジ

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一体何を頼まれるだろう…… よく、学生時代に友人同士で、そういう賭けをした。懐かしいそれらの記憶は、楽しいものだ。 しかし、今の私たちの雰囲気に、その空気はない。 「調子がでないから倒れるとは思えないけど……」 彼は弱気なことを言う。 きっと、はる君のことを気にしているせいだ。 「わかりました。いいですよ」 私が了承してしまった理由は、優斗君を元気にしたかったからだ。 「おっ、ありがとう。じゃあ投げてくるね」 「はい……頑張ってください」 「頑張る」 優斗君は微笑み、足を回れ後ろと向きを変えた。 彼の離れていく後ろ姿を、じっと見つめる。 次は、どうだろう。 優斗君は立ち位置に立つと、綺麗な姿勢で、ボールから手を放した。 思わず、息を飲む。 「あっ……」 優斗君のボールが一つのピンを残して倒れたのを見て、私から声が漏れた。 すごく、おしい…… 優斗君が振り向いたと思うと、私に「次で倒れるのもあり?」と、言った。 例の約束のことだ。 「うぅ……はい」 悩んだものの、頷いた。 「本当?」 「はい。でも、難しそうですよ……」 一つのピンは、一番奥のガーターレーンぎりぎりの場所で意地悪に立ち残っている。 あれは、きっと、難易度が高いはず。 「大丈夫、倒してみせる」 優斗君は、再び身体を翻した。 そして、ボールは放った。
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