オレンジ

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「後半調子がよかったですね」 すべてのゲームが終わったが、後半彼の調子は本当によかった。 賭けのあとの彼は、多くのピンを倒していたからだ。 「胡桃もはじめにしては、上手かったんじゃない?」 「そうかな……ありがとうございます」 「また来ようね」 私は“また”と、いう言葉に一瞬止まった。 植物園の帰りにも言われたが、なんでもない関係の彼と、約束を重ねるのはどうなのだろう…… しかし、優斗君は「行こう」と、私の返事を求めなかったため、慌てて立ち上がった。 「あの、ボール、持ちます……!」 優斗君は彼自身のものと、私のものまで持ってくれている。 だが「いいよ、もうそこだから」と、言って、私のぶんまで片付けてくれた。 こういうところに、女性は弱い。 「ありがとうございました……重いのに……」 「いいよ、そんなに重くないし」 彼の笑顔が私の胸のドキドキをさらに誘う。 「ほんと、礼儀正しいね」 「そんな、当たり前です……」 私はたまらず視線を外した。 しかし彼は気にする様子を見せず、受付に足を進めた。 優斗君は、ここでも私にお金を使わせなかった。 年上だから当たり前、と言ったが私は甘えすぎな気がした。 優斗君の車に再び乗り込むと、彼が私を真剣に見つめて口を開く。 「あの約束、今言ってもいい?」 「……え?」 「ほら、ピンを全部倒したら、胡桃にいうこと聞いてもらうって約束」 「あぁ……」 私はすっかり忘れていた。
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