オレンジ

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彼は気を遣っているのか、何も言わず前を真っ直ぐに見ている。 運転しているのだから当たり前だが、焦る。 なんだかひどく、自分が嫌な人間に感じる。 「あ、の……」 特に話す言葉は考えていなかった。 しかし、何か話さずにはいられない、と口を開いた時、優斗君が「何か買い物したいものない?」と、言った。 「え……?」 「泊まってもらうからさ、何か必要なものないかなって思って」 「あぁ……」 このまま進むと、私の住むアパートまですぐに着いてしまう。 一度家に寄るのだから、買い物なんてない。 しかし、優斗君は私に気を遣ってくれている。 「お願いします……」 「じゃあ少し、引き返すね」 「すみません……」 やはり、そうだ。 私のために引き返した。 ごめんなさい…… 彼にも、母にも…… 私の心は醜さでいっぱいになる。 優斗君は、私がよく寄るスーパーではなく、少し離れた場所にあるスーパーまで連れてきてくれた。 店内は買い物客は少なく空いていた。 もうきっと、皆は夕食の買い物を終えた頃だろう。 「ご飯はどうする?」 「私も、同じこと思ってました……」 「お腹空いてる?」 「えっと、はい。優斗君は……?」 彼も同じく頷いた。 ここは何か作るべきだろうか。 「あの、私、全然料理上手くないんですが、カレーとかなら作りますよ」 たぶん、罪悪感があったからだ。 私は彼を上目遣いに見つめた。
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