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彼は「どうしてって顔してる」と、言って苦笑した。
懐かしい顔に、私の忘れていた切なさが思い起こされた。
「浮気はしてないよ」
「……え?」
「胡桃ちゃんを振り向かせたかったから、嘘ついた。胡桃ちゃん浮気したって言っても泣かないし、別れようって言っても否定しないし、俺子供だったから、胡桃ちゃんに好きになってもらえないのが辛くて逃げた……」
はる君は切なそうに顔を歪める。
私は彼をふた月の間ずっと、苦しめていたのだろうか……
もしかすると、それ以上、苦しめたかもしれない。
「ごめんね、嘘ついて。胡桃ちゃんがあの頃すごく好きだったよ……」
「はる君……」
まさか、今、四年越しに真実を告げられるなんて思わなかった。
私は、どうしたらいいんだろう……
「胡桃ちゃんは俺と別れてつらかった?」
私は、「うん」と、首を縦に振った。
「そっか、それだけ知れてよかった。今も、どこかで胡桃ちゃんを忘れられなかったから……」
はる君の瞳は哀しく細められる。
私は「ごめんなさい」と、小さく言った。
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