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視線の先の優斗君の顔は、嬉しそうに崩れる。
「ほんと?いいの?」
「……はい」
「嬉しい。俺、カレー好きだよ」
「私も好きですが……期待はしないでください。私、料理上手くないんで……」
付き合ってもない男性に、手料理を振る舞うことになるなんて、少しも思わなかった。
ちなみに今までそういう経験がない。
しかし、私自身買い物するものなんて、ない。
だから、ちょうどいいのかもしれない。
優斗君は「ううん、ありがとう」と、私の頭を撫でて言った。
しかし、私から出た言葉は「ごめんなさい」だった。
それには彼は答えず、柔和な笑みを浮かべただけだ。優しいと思った。
「行こう。買い物しよっか」
彼はカートにカゴを乗せ、私の手を引く。
本当に優斗君は優しい……
私は醜い嘘をついたあとだからか、彼の手を自らも握り返してしまった。
それに彼は気づいたはずだ。
だって、少しその手が震えたから……
「こんなに色々買っていいんですか?」
「え、うん」
優斗君は、カレーの材料だけでなく、私が「これ、美味しいんですよね」と、口にしたものをすべてカゴに入れていくことに、途中気がついた。
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