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「果物も買う?」
彼は絶対、何か思ったはず。
しかし、触れずにそう言っただけだ。
なんだかたまらなくなり、泣きそうになる。
少しだけ視界がぼやけて、顔をうつむかせた。
「苺買おうか、胡桃は好き?」
彼にまた、気を遣わせた。
私は無言で頷くと、彼が少し歩いた先にある苺をカゴに入れた。
涙はこぼれなかったけれど、私は心の中で泣いていた。
母に嘘をついた罪悪感と、彼の気遣いから……
両手いっぱいに買い物袋を持つ優斗君と、車に戻った。
彼ははじめ私に一つも荷物を持たせようとしなかったが、量が量のため、私も持った。
しかし彼は軽いものしか私に与えなかった。
やはり、優しい。
こういう優しさに女性は本当に弱いのだ。
こんなに大切にされると、さすがに私も揺らいでしまう。
まだ、心には店長がいるというのに……
彼と私は、今度こそ私のマンションへ向かった。
マンション側のコインパーキングに車を停め、マンションへ入る。
エレベーターで私の部屋まで昇ると、母に伝えられた通り、取っ手に大きな袋がかけてあるのがまず目に入った。
とにかく袋を取っ手から外し、手に取る。
袋の中は上部から、オレンジ色と、行楽用の大きめのピンクの弁当箱が見えた。
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