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しばらく袋の中を見つめていたが、「胡桃」と、優斗君に声をかけられハッとした。
「ごめんなさい、ドア、開けますね」
「うん。俺はここで待ってるから、準備してきて」
「え、あぁ……」
母の荷物に気をとられ、何のためにここに来たのか忘れていた。
私は彼の家に行こうとしていたと思い出す。
「あ、あの、片付いてませんけど、中で待ってください」
なんとなく、今は一人になりたくない。
それに、彼にはとてもよくしてもらっている今日、外で待たせるのは申し訳なく感じた。
「……いいの?」
優斗君の目が開かれる。
しかし私は母のことがいっぱいであまり気にならなかった。
「どうぞ、何のおかまいもできませんけど……」
「それじゃあ、お言葉に甘えて……」
優斗君を玄関に誘う。
彼の部屋より狭いけど、外よりはましだろう。
玄関の灯りをつけ、彼に「どうぞ」と、声をかけた。
「お邪魔します。なんか、緊張するな……」
その台詞は彼らしくない。
少し、気持ちが溶けるようだ。
「緊張するほど広くもないし綺麗でもないんで」
「いや、そうじゃなくて、胡桃の家だから」
僅かに照れたような瞳と視線がぶつかる。
「私の家なんて、本当に普通です……」
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