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母のことを話し、人前で涙するのは初めてだ。
それも、男性の前で、なんて……
それでも彼の大きな胸は落ち着く。子供みたいにわんわんとは泣かないが、静かに涙した。
「ごめんなさい……」
優斗君から離れたのは、そんなに時間が経ってないと思う。
冷静さを取り戻し、自分の手の甲で目元を拭った。
マスカラが黒色が手を汚すため、私の顔はひどいことになっているはずだ。
「顔、洗ってきていいですか……?」
急に恥ずかしさを覚えた。
「うん」
彼の声は優しかった。私の頭を一度撫でるが、その手つきも同じく優しい。
洗面台の前に駆けると案の定、目の回りは黒が広がっている。私は化粧を落とすか少し迷ったが、彼にはもうすでにすっぴんをさらしているため、顔を洗うことにした。
「すみません、お待たせしました」
「待ってないよ全然」
なんとなく、彼と視線を合わせにくい。優斗君は、携帯を見ていたところだったが、すぐに視線を私に向けた。
私は逸らしてしまったけれど。
「じゅ、準備しますね」
「うん。慌てなくていいよ」
彼はそう言ったが、動いてないと落ち着かない。
急いで準備を整え、最後に母の唐揚げの入った弁当箱を鞄に入れた。
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