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部屋のチャイムが鳴ったとき、立ちすくんでいた私は動揺で震えた。
それでも玄関へと歩き、私はゆっくりと鍵を開けた。
しかし、扉を開ける勇気がない。
彼がどんな顔をしているか、見るのが怖くて……
すると、もう一度チャイムが鳴ったあと、彼が玄関の扉をゆっくりと開けた。
それから「こんばんは……」と、静かな窺うような声で、顔を覗かせる。
きっと、鍵を開けた音が、聞こえたに違いない。
しかし、私は彼の言葉に何も返せないでいる。
ただ優斗君を見つめていると、彼は「ごめん、失礼するね」と、言って玄関に足を踏み入れてきた。
静かに扉が閉められたとき、ひどく緊張した。
私を視界に入れたときの彼はというと、とても心配そうに表情を歪めて、「大丈夫?顔、赤いよ」と、迷ったように私に手を伸ばす。
彼の手が私の頬に触れたとき、身体が熱く震えた。
一瞬、ためらったのに気づいたが、それでも……
前に感じた彼の温かい手の温もりは、今はそうは感じない。私の頬が、より熱いせい。
「薬とか……飲んだ?」
彼の瞳が私を覗く。久しぶりの近い距離に胸の鼓動が早まるのを感じた。
「いえ……」
「何か食べた?」
「……大丈夫です」
その答えは食べてないと教えたようなもの。
「……少し、お邪魔してもいい?ゼリーとか買ってきたよ。あと……これ……頼まれたから」
彼が手にして見せたのは体温計。
この部屋にないものだ。
それは、留実ちゃんが来たときに伝えたのだけれど、やはり彼に伝えた人は彼女で間違いなさそうだ。
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