97人が本棚に入れています
本棚に追加
「きつそうだね……可哀想に」
「あ……はい」
彼の瞳が切なく細まり、胸が震える。
「ゼリー食べる?」
私はそれに反射で頷く。特に食べたいわけではなかったのに……
すると、少しだけ表情を緩めた彼が持ってきた買い物袋から、カップゼリーを取り出して、私に見せた。
「ぶどうとりんごどっちがいい?」
私は彼の左にあるぶどうを指差した。彼はすぐにぶどうゼリーの蓋を開けて、私に渡す。それから、プラスチック製のスプーンも渡してくれた。
「ありがとう……ございます」
「ううん。食べられる?食べさせて……あげようか?」
「い、いえ、平気です……」
彼の申し出に驚いた。
まさか、そんなことを言ってくると思わなかったから……
「そうだよね……」
しかしすぐ、彼は落胆したような声を出す。
その理由を、なんとなく察してしまう。
私まで暗い気持ちになったが、彼に「食べなよ」と、言われ無理矢理口に入れた。
熱い口内に冷たい甘さが広がり、痛い。
美味しさは感じなかった。
「大丈夫?冷たすぎた?」
私は首を左右に振ったが、彼にはバレバレだったよう。
「無理しないで、温かいもののほうがよかったみたいだね。このお粥温めるから待ってて」
「……すみません」
今度は彼の優しさが痛い。
「キッチン使うけど、いい?」
「はい」
「あ、そうだ……はい、これで測ってみて」
彼は私に新品の体温計を渡した。
「すみません……買ってきてもらって……」
「ううん」
「な、なぜこれを……?」
彼は立ち上がっているため、今は私が見上げる形だ。
「花屋で働いてる女の子に頼まれたんだ」
「え、やっぱり……」
掠れた私の驚いた声はとてもおかしく響いた。
だからかもしれない、彼が少し笑った。
「今日俺、少し会社で仕事してたんだよ。仕事が終わって駅まで歩いているとき、彼女に話しかけられたんだ。“胡桃さんのお友だちですよね?”って」
「え、わ、すみません……」
なぜか私は謝ってしまうと、彼がさらに表情を和らげた。
「謝られることはしてないよ」
「で、でも……」
私は俯き、彼を上目遣いに見つめた。
すると、彼の手が私の頭に乗る。
最初のコメントを投稿しよう!