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「大丈夫?」
店長の問いかけに私は「大丈夫です」と答える。
身体はひどく、だるく重い。
私の乗る助手席のシートは倒し気味にしているが、それでも早く横になって休みたかった。
店長は“ついで”と言っていたが、配達先は自宅に近いわけではない。
私に気を遣わせないための、彼の優しさだろう。
二人で出掛けたときは、駅までも送ってくれなかった。
仕事の延長とはいえ、仕事ではなかったあの日、店長は簡単に私を見送った。
しかし今は彼は店長として、私を送ってくれている。
やはり、彼にとって私は従業員でしかないのがわかる。今は悲しさはなく、申し訳ない気持ちばかりある。
「すみません、本当に……」
もう何度謝ったかわからないが、信号待ちになる度に口にしている。
「いいよ。本当に。大事なうちのスタッフなんだから」
「はい……ありがとうございます」
信号待ち、店長が私の方を見て笑った。
その笑顔は不調のせいか、ややぼんやりと映る。
「胡桃ちゃんには早くよくなってもらって、また水曜から頑張ってもらわないといけないからね」
「はい。頑張ります」
私は背をシートにもたれかかりながらだが、意気込みを見せた。
それに彼は「うん」と言って、私の頭を撫でる。
二人だけの空間で、距離も近い。
私が好きな……店長の手。
「あの、店長……」
「どうしたの?きつい?」
まだ信号は赤のため、彼は私を見てくれている。
「いえ、そんなんじゃなくて、私……」
「……な、に?」
店長の顔が心配そうにするものから、若干固さがまじる。
もしかすると、彼には私の気持ちはバレていたのではないだろうかと、感じてしまう。
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