97人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
だがそれは、私の視界がぼんやりとしているからなのかも……
「店長のこと……尊敬してます」
「……」
私の言葉に店長が黙ってしまう。しかし、少しした後、後ろの車にクラクションを鳴らされた。
私は、慌てたように店長が車を進める姿を見つめる。
彼は真っ直ぐ向いたまま、「鳴らされちゃったな、ごめんね。急発進して……」と、言った。
「いえ、私も話していたので、すみませんでした……」
「ううん」
店長はそう言ったが、きっと優斗君なら「胡桃は悪くないよ」と、言いそうな気がした。
私は店長から、窓の外へ視界を変えた。
店長といるのに、彼を思い出すなんて……逆に考えることはたくさんあった。今まで、ずっと……
優斗君といて、たくさん店長を思い出して、胸を切なくときめかせていたのだから。
それからは、自宅につくまで私たちは無言でいた。自宅を案内する車のナビの音声だけが響く。
私は静かに、窓の外を流れる景色を見つめていた。
心地よい揺れとお日様の温かい日差しが私を眠りに誘いはじめるころ、車は私のマンションの下に着く。
車から降りるとき、身体がひどく震えふらついた。
「大丈夫?一人であがれる?」
店長は慌てて降りてくれ、私を支えた。
「部屋まで行こうか?」
「いえ、平気です。店長、ありがとうございました」
私は彼から離れ、頭を下げた。
やはり身体はふらつくが、歩けないことはない。
「胡桃ちゃん、病院行くんだよ」
「……はい」
そうは言ったが、行ける気はしない。
私はきっと、行かないだろう。
しかし、身体は弱くない、寝たら治る気がした。
今度こそ、マンションの中へと足を踏み出す。
すると店長がまた私を呼んだ。
最初のコメントを投稿しよう!