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あの日に感じた温もりをこんなに切なく思い出すなんて……
今、彼に会えたら、素直に甘えてしまいそう。だが、彼にはきっと……
脳裏浮かんだ素敵な彼女の姿に、胸が苦しくなる。
私の心にまた暗い感情がやってくる。
私はお湯が沸くのに気がつかないくらい、考え悩んでいた。
しばらくぼんやりしていた私だが、携帯が着信を知らせる音に、身体が反応する。
もしかして……と、今まで思っていた彼かと期待して携帯を手にすると、相手は留実ちゃんだった。
彼女から連絡が来ることはほとんど、ない。
だいたいエイリーで会うし、「今度ご飯でも……」と、言い合う仲だが、彼女が学生ということもあり、私から誘ったことがない。
きっと、彼女も同じ感じだろう。
彼女がなぜ……と、思ったものの、私はそれに出た。
「もしもし……」
「胡桃さん、大丈夫ですか?風邪、治りました?」
はつらつとした留実ちゃんの声だ。暗い気持ちを吹き飛ばしてくれるような声だが、私は同じように返せず、掠れた声で「うん、ありがとう」と、言った。
「わ、大丈夫じゃないじゃないですか……声ひどいですよ。病院は行ったんですか?」
「あぁ……ううん、大丈夫だよ」
「ダメじゃないですか、胡桃さん」
年下の彼女に言われてしまうなんて、情けない。
だが、その通りである。
「店長の言ってた通りですね。あの、私、胡桃さんの家の近くにいるんです。今お家ですか?」
「……え?うん……」
「ほら、胡桃さんの家と私の家近所なので、バイトに行く前に寄ってくれって店長に頼まれて。飲み物とか市販の風邪薬とか買ったんで、持っていっていいですか?それに、私一応看護士目指してるんで、普通の女子より様子をみれますよ」
留実ちゃんらしい物言いに、ほんの少し表情が緩む。
それにしても、なんて、ことだろう……
やはり店長は従業員思いである。
「あ……うん、ありがとう」
「全然ですよ。じゃあ今から行きますね」
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