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留実ちゃんはきっと店長に住所を聞いたのだろう、部屋のチャイムが鳴って、家に彼女が来たのを知らせた。
重い身体を起こしエントランスから中に繋がるドアを解除するとすぐ、彼女は私の部屋へやってきた。
玄関を開けると、両手にビニール袋を提げた、ピンク色のマスクをつけている留実ちゃんの姿がある。
「胡桃さん、大丈夫ですか?」
「あ、うん。ありがとう……」
「だいぶつらそうですね、色々買ってきましたが……胡桃さん、これ、持てませんよね?」
彼女は自身の両手を見下ろしたあと、私を見た。
ビニール袋には、多種類の清涼飲料水が入っていて、重たそうである。
「ごめんね、そんなにたくさん……」
「いえ、申し訳ないですけど、少しだけお邪魔していいですか?」
「あ、うん……散らかってるけど、どうぞ」
部屋は片付けていないが、玄関先で追い返すわけにはいかないと、私は中へ誘った。
彼女は部屋にあがると、テーブルにビニール袋を置いてくれた。
「何か食べました?」
「ううん、実は今……起きたの」
「そうですか……」
彼女の視線は、私の頭から足先を移動する。
私は昨日の服のまま。それに化粧も汗でとれているだろうし、ちゃんと落としていないためひどい顔に違いない。
「とにかく何か食べなきゃですよ。水分も摂ってないんですよね?脱水おこしますから、とにかくどれか、飲んでください」
彼女は私に清涼飲料水の入ったビニール袋を近づけた。その中の一つを手に取り、「いただきます」と言って口にした。
ひどく喉が乾いていたため、美味しい。
私は一気に半分以上飲んでしまった。
「自分で水分が摂れるならまだ大丈夫ですね、とにかく飲んだ方がいいですよ」
「うん、わかった……ありがとう」
「あ、うどんとかお粥とか買ってきました。温めましょうか?」
「大丈夫、できるよ」
これ以上、彼女には迷惑をかけられないと思ったため、首を左右に振る。
「だれか看病してくれる人がいればいいんですけどね……」
「え、あ、はは……」
そんな人、いない。
私の虚しい笑いは、風邪のせいでさらに寂しく広がった。
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