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「……岩切さん、ずっといたのかな……」
みなみの顔が青白くなる。
私はきっともっと真っ青だ。
私と彼女は面識がないが、みなみとはある。“須賀原”という名字は珍しいし、きっと私たちの話をずっと聞いていれば理解できるはず。
彼女の性格は知らないが、もし彼を好きなら嫌な行動は取りそうだ。
「……わからない」
私の声は暗く発される。
するとみなみが「さっきはごめん。私、胡桃の話もそこまで聞いてないのに……」と言った。
「ううん、店長に話してしまったのは本当だから……」
彼女の言う通り、私はひどい。
「それだけ動揺してたのよね……たぶん。でも店長が胡桃を好きだなんて、嘘くさい。彼女にフラレて寂しくなっただけじゃないの?」
「……どうかな」
店長のこともどうしよう。
私は増えた悩みに頭が痛くなる。
「付き合いたい?須賀原さんと別れて」
みなみの言葉に私は何も答えられなかった。
「胡桃……」
「わからないの。混乱して……。ただ優君がいなくなるのは……苦しい」
私はまた手で顔を覆った。
もう涙は出ない。しかし瞳は瞑っていた。
「……そっか。少し落ち着いて、考えたほうがいいね」
「……うん」
みなみに会ったが、すっきりしなかった。
やはり私が決断しなければならない。
どうしたらいいのだろう……
悩みは消えることはなく、日に日に増していく。
優君とはそれから何度か会ったが、転勤の話は互いに触れなかった。
店長はというと、答えを求めてくることはなくて、でもさらに彼からのスキンシップが増えた。
そうしているうちに時は、彼が発つ一日前になっていた。
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