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優君は昨日から異動期間のため、仕事は休みになっていた。そこで今日私も、彼と過ごそうと休みをもらった。
明日離れるというのに彼は「どこに行く?」と、優しく微笑みいつものように言った。
いつもは彼任せにする私だが、今日は「海に行きたい」と言って、前にデートした海に連れていってもらった。
青い車に乗ることももうしばらくない。
彼の横顔を見つめながら、私は胸を苦しくさせていた。
今日は晴天だったため、彼と訪れる二度目の海は、前と違う顔を見せていた。
水面が青く、水平線がくっきりと浮かんでいる。
絵になりそうな海であるのに、真っ青な海が今日は悲しく見える。
「綺麗だね」
「はい……」
彼には綺麗に映っているのだろうか。
私は彼を見つめた。
視線の先の彼の横顔は無表情でいる。そして、とても綺麗だった。
「シンガポールから行けるラワ島ってとこは海が綺麗なんだって」
彼が私を見下ろして、言った。シンガポールの話は聞きたくない。耳を塞いでしまいたい。
「……そうですか」
それでも無視はできない。でも暗く声が出てしまう。
「コテージが幾つか建ってて、遊べる施設もあるみたい。夏とか行けたらいいよね」
私は頷いて、手を繋ぎあっている自身のものに力を入れた。
「他にもウミガメが見れる島もあったはず。なんだったっけな……」
彼は目を細めて、思い出そうとする顔を見せる。
私はその島のことを知りたいと思うよりも、彼の顔を見つめることに真剣だった。
「忘れちゃったけど、綺麗なところがあったはずだよ……」
彼はそう言って、笑った。
私も無理矢理笑ったが、ひどい顔だったかもしれない。
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