ストック

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翌日は定休日だったので、一日家に閉じ籠り彼のことを思っていた。 何度も指輪を見つめ、何度も携帯を手にし電話をしようとしたが、できない。 「……優君」 それから何度と彼の名を呟いたかわからない。 結局彼に連絡を取ることはできず、翌朝がきてしまった。 足取り重くエイリーに行くと、店長が笑って「おはよう」と言ってきた。 いつもの朝の時間、私と店長しかいない。 「おはようございます」 私は無理矢理表情を作ったが、声は暗かった。 「胡桃ちゃん、今日元気ないね」 店長に見破られたが「少し寝不足で……すみません」とだけ伝えた。 「そう……無理しないでね」 もう、店長に優君のことは話さない。 私は店長から視線を離し、作業をはじめた。 仕事中は優君のことを忘れられると思ったが、トルコききょうやひまわり、それからバラを見ると、優君の顔を思い出して泣きそうになった。 まだ売れてないレモンの木を見たときは本当に泣いてしまいたくなった。 葉だけだったレモンは小さな身をつけはじめ、近くを通るとレモンのいい香りがする。 優君を思い出す匂いは、私をとても苦しくさせた。 作業中、あまり身が入らない。 店長が気づかねような小さなミスを何度か繰り返してしまうほど。 そんな日が一週間ほど続いた日、店長に夕食に誘われた。
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