ストック

16/21
前へ
/21ページ
次へ
あまり乗り気はしなかったが、治人さんも来るというので誘いに乗った。 三人で夕食を食べるなんて珍しいこと。 エイリーの花をよく注文してくれる近くの居酒屋で、それははじまった。 「お疲れさま」と言い合い、私たちは飲み物を口にする。職場の飲み会でははじめは甘いアルコールを頼むが、彼が飲まないでと言っていた約束をまだ守りたくて、私はウーロン茶にした。 「最近彼氏とどう?」 飲みはじめてしばらく、治人さんが軽い口調で言ったので私は顔に固さを出しつつも「いい感じです」と言った。 治人さんには優君の転勤の話はしていない。 「そう、いい彼氏だもんな、優しそうだし。前から胡桃ちゃんを見に店の前にいたんだよなぁ」 少し酔っているのか、そんなことを口にする。店長は静かに食べ物をつまんでいる。 「……前から?」 「彼が店に来るずっと前だよ、あれはずっと胡桃ちゃんに惚れてたね」 「……ずっとって……」 「聞いてみな彼に。いつから私を好きだったの?って」 治人さんは女口調で冗談っぽく言う。 それは本当だろうか。私の胸は優君だらけになる。しかし彼は簡単に聞ける距離にいない。 「いいよなぁ若いって」 治人さんがそう言ってすぐ、彼の携帯が鳴った。 それは彼の妻だったらしく「悪い」と言って、外へ行ってしまった。 店長と二人きりになる。とても気まずい。 前はあんなに嬉しかったのに、今は少しもそれを感じない。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加