ストック

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しかし無言の時間も辛い。 私は男性陣と向かい合わせに座っていたため、二人から同じ位置に来るようにと、テーブルの真ん中に来るように腰を下ろしていた。 そのため、店長はすぐ近くに感じる。 咄嗟に私は右横に飾られている店長が生けたいけばなを見て、「店長のお花綺麗ですね」と言った。 その言い方には心はこもってなかったかもしれない。でも、口にしたあとに、柳を円形に生け、その端にピンクのストックを纏めて生けてあるのは、たしかに綺麗だった。 私も真似してみようと思ったりして…… 「ありがとう」 店長はそう言うと「ストックって逆境に堅実っていう意味があるんだよ」と言った。 「逆境……」 私が繰り返すと、店長がゆっくりこちらに手を伸ばしたので、私は自意識過剰にも手を取られるのではないかと思い、思わず両手でグラスを包んでいた自身の手を引っ込めた。 すると店長は、重ねてある空の小皿を取り、彼のほうへ置いただけだった。 過剰な反応が恥ずかしく、手を膝の上で握りしめる。 しかし店長の様子は変わりがないため、ややホッとする。 「そう、他にも愛の絆とか……。僕はそっちのほうが好きだな」 店長がそれを教えて私を見つめた。 「ねぇ、胡桃ちゃんと僕なら、絶対上手くいくと思わない?長く仕事をやって互いのことをよく知ってるし……」 「……」 「彼より絆は深いと思うけどな。遠距離なんて、きっと続かない。会いたいときには会えないし、相手が気になっても、本当のところはわからないよ。信頼関係はすぐに薄れる」 その言い方はまるで店長の経験したことのように思えた。 「近くにいる相手のほうがずっといいよ」 店長は少し切なそうに笑う。
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