107人が本棚に入れています
本棚に追加
「店長は……」
「うん」
「前の彼女さんとはずっと遠距離でしたよね」
私から店長の彼女のことを触れるのははじめてのこと。
ずっと聞きたくないと思っていたため、気になるが避けていた。
今、簡単に聞けたのは、嫉妬を感じないからだろうか。
「そうだよ」
「どうして、別れちゃったんですか?」
私が無遠慮に聞くと「彼女が浮気したから」と言った。
「……浮気ですか」
「そう。彼女は否定してるけど、ちゃんと証拠もあるんだ……。相手の男は僕の友人だったから」
店長はひどく辛そうな顔をして、ビールを煽った。店長の心の傷は深いのだろう。
「胡桃ちゃんは僕が嫌い?」
「……え」
「好きだよね。ずっと、見てたんだから」
「……」
「まだ好きでしょう?簡単に彼を忘れられると思うよ」
店長の言い方はなんだか意地悪で、少し攻撃的にも感じる。
「……ずっと好きだったんだから、彼を忘れればいいだけだよ。これから絆を深めよう」
店長がそう言ったとき、治人さんが戻ってきた。
私はそれにひどく安心してしまう。
治人さんが戻ると、話題は仕事の話へチェンジした。
それから三人で食事を続け、二時間ほどで店を出たとき、店長に別れ際「またね」と頭を撫でられた。
ちょうどそのとき、店の扉が開いてお客が流れ出てきたので、店長に腕を引かれ店の出入り口から離れる。
なんとなくお客を見ていると、その中に岩切さんの姿があり、私と彼女は互いに見つめ合った。
最初のコメントを投稿しよう!