ストック

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それは店長が横から「胡桃ちゃん?」と言うまで続き、彼女が私を睨むようにして視線を逸らし身体を翻したところで、ハッとした。 「胡桃ちゃん、どうしたの?」 店長の声が聞こえるが、私の目は隣に向けず彼女の背を追っている。 「胡桃ちゃん?」 もう一度呼ばれ、私はようやく店長を見つめ「すみません、お疲れさまでした」と言って、走り出した。 行く先は彼女のほう。 岩切さんは駆けてなかったため簡単に背中に追い付いた。しかも彼女は私の気配に気付き、私が後ろに来た途端振り向いた。 彼女の目が一度大きく開き、すぐに鋭くなる。 その視線に怯んだのと、話したことのない彼女を前にたじろいたのと両方。 私は何も言えず、彼女を上目遣いに見つめる。 私は何をしたかったのだろう…… でも追いかけずにはいられなかった。 しばしの沈黙のあと、先に口を開いたのは彼女だった。 「……何ですか?口止めでもしにきたんですか?」 「……え」 彼女がキツい口調でそう言った。 「安心してください。あなたが浮わついてたことなんて言わないから……」 浮わついていた…… 私はその言葉にショックを受ける。 「どうせあなたのことを伝えても、須賀原君が私を見てくれることはないもの……」 「……え?」 「前に営業部の派遣の子とあなたとの会話を聞いたことを彼に伝えて、私じゃダメかって須賀原君に言ったけど……ダメだったもの……」 岩切さんの鋭かった顔が切なく歪む。 まるで泣きそうなそれに、胸が痛い。 「私のほうが好きなのに……」 その台詞には聞き覚えがあった。 そう、前に優君に同じことを言われたことがあった。
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