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前に私が店長と出掛けて、それを目撃し勘違いした彼に、同じ台詞を言われた。
“きっと、俺のほうが彼より君を好きなのに”
彼の言葉を思い出し、胸がとても痛くなった。
それからとても切なく苦しそうな表情まで思い出してしまった。
あのとき彼は心で泣いていただろうか……
「あなたなんて大嫌い」
思い耽っていたため何も言えないでいる私に、岩切さんはそう言って身体を翻し早歩きでいってしまう。
もしかすると、泣いているかもしれない。
だが私はもう追いかけることができず、ただ立ち尽くす。
彼女にとって私は最低な女だろう。
ひどいことを言われた。でもたしかにその通りだ……
「胡桃ちゃん……」
そんなとき、私の肩を叩いて声をかけてきたのは、治人さんだった。
「……治人さん」
穏やかな表情でいる治人さんを見上げると、今の苦しい胸の内がほんの少しだけ和らぐ。
「……なんか色々、こじれてるみたいだね」
「……」
「……店長も、どうしちゃったんだろうね」
治人さんが溜め息混じりに言ったので私は「店長は……?」と聞いた。そういえばろくに頭も下げず、別れてしまった。
「胡桃ちゃんにフラレてすぐ帰ってったよ。一緒に帰りたかった?」
私はそこで大きく首を横に振った。
「そうだよね」
きっと治人さんには私のことも、店長とのこともお見通しなのかもしれない。
そんな気がした。
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