ストック

7/21
前へ
/21ページ
次へ
「彼が遠くに転勤になったんです」 「……そうなの?」 それは店長にとっても驚きだったようで、目が大きくなった。 「はい……」 「もしかして、付いてきてって言われたの?」 優君には“もし”と話をされたが、断言はされていない。 しかしあの言い方は彼らしい。 私の意思に任せるところは優君そのものだ。 そういうところに惹かれていったのは確かだが、今回はひどく私を揺らしている。 私が黙ったままでいると店長になぜか左手を取られた。 私はハッとし、思わず身体を後ろへ後退させた。 「……え」 それから戸惑う声が漏れ、左手を離そうと引いたが店長は力強く握りしめる。 優君とは違う冷たい手、ずっと繋ぎたいと憧れたいた手だ。 「……店長?」 しかし今は店長の真剣な顔が、怖い。 ずっと好きだった表情なのに、身体が震える。 「行かないでよ」 「……え?」 「胡桃ちゃんは、僕が好きだったでしょう?」 まさか店長が私の気持ちを知っていたとは…… しかしそれより、はじめの言葉は何なのか。 「また僕を好きになって……ずっと一緒にここで働いて欲しい」
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加