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「彼が遠くに転勤になったんです」
「……そうなの?」
それは店長にとっても驚きだったようで、目が大きくなった。
「はい……」
「もしかして、付いてきてって言われたの?」
優君には“もし”と話をされたが、断言はされていない。
しかしあの言い方は彼らしい。
私の意思に任せるところは優君そのものだ。
そういうところに惹かれていったのは確かだが、今回はひどく私を揺らしている。
私が黙ったままでいると店長になぜか左手を取られた。
私はハッとし、思わず身体を後ろへ後退させた。
「……え」
それから戸惑う声が漏れ、左手を離そうと引いたが店長は力強く握りしめる。
優君とは違う冷たい手、ずっと繋ぎたいと憧れたいた手だ。
「……店長?」
しかし今は店長の真剣な顔が、怖い。
ずっと好きだった表情なのに、身体が震える。
「行かないでよ」
「……え?」
「胡桃ちゃんは、僕が好きだったでしょう?」
まさか店長が私の気持ちを知っていたとは……
しかしそれより、はじめの言葉は何なのか。
「また僕を好きになって……ずっと一緒にここで働いて欲しい」
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