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「な、何を言ってるんですか?」
店長はなぐさめてくれているつもりだろうか。
しかし、そんな簡単な理由での台詞だとしては重たすぎる。
私が声を震わせると、店長が口元を少しだけ緩めた。
「実はね、胡桃ちゃんがここで働くようになってからずっと、僕は前の彼女が好きだと思ってたから、胡桃ちゃんの気持ちに気づかないふりをしてたんだ。でも、胡桃ちゃんが僕を見つめる目が変わったのにあるとき気づいて、寂しくなった。そのあとすぐ、彼ができたと聞いて、焦ったよ……」
「……」
「今さらだけど胡桃ちゃんが好きだって気づいたんだ……」
まさかずっと好きだった店長に想いを伝えられるなんて……
昨夜から嘘みたいなことが続く。
「もう、完全に僕は胡桃ちゃんの心にいない?」
店長が切なく言ったとき、店にお客が入って来る気配を感じた。
店長はようやく手を離しお客に「いらっしゃいませ」と声をかける。
それから私にしか聞こえない小さな声で「……僕は本気だよ」と言って私から離れた。
私の心は大きな波がおこるように、揺れ乱れる。
優君のことでいっぱいだったのに、まさか店長から告白されるなんて少しも思わなかった。
たしかに優君と付き合う頃、店長のスキンシップが増えたのを思い出す。
それは私が好きになっていたからだというのだ。
とても信じられない。
私は彼をそっと盗み見る。
店長は私がずっと好きだった顔で笑いながら接客していた。
どうしたらいいんだろう……
私はますます困った。
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