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新郎新婦との装花の打ち合わせは重要な役割だ。
毎回店長が担っているため、私は「え……」と固まった。
「勉強になるでしょ?」
「……それはそうですが、私なんて……」
「僕も一緒に聞いてるから」
その言い方は私に主に任せるというように聞こえる。
私が黙っていると、店長が優しく微笑んだ。
「大丈夫、なにも一人で作ってなんて言ってないんだから。これまで僕が打ち合わせするのをなんとなくでも聞いてたでしょ?」
「それは……はい」
たしかになんとなく聞いてはいたが、作業中だったこともあり真剣でなかったため、急な指示に不安ばかりだ。
「それなら大丈夫。やってみてごらん」
「……わ、わかりました」
「うん」
「頑張ります」
「うん、よろしくね」
店長はそう言うと、私から視線を逸らし予約の伝票を確認し始めた。
きっと店長がいれば大丈夫だろう。
やはり、店長は仕事の上で尊敬できる人物で変わりはない。
もうそこに“恋心”はないとはっきりわかるけれど……
午後を回る頃になると、店に治人さんが現れて私にこっそり「大丈夫だったか?」と言った。
私が大丈夫だと伝えると、彼は安堵した表情を見せ、私の頭をぐしゃぐしゃという風に撫でた。
今日のポニーテールに結った私の髪はきっと今ので荒れただろう。
しかし、それくらい治人さんは気にかけてくれたのだ。
私はそう思い、髪の乱れを直す。
そしてその日の終業後、いよいよ店長に話せる時間がやってきた。
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