コットンキャンディ

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「店長、どうですか……?」 店を閉めて一時間後、私のブーケが出来上がった。 真っ白のふわふわした真ん丸のブーケの持ち手のリボンは黄色で、私の好きな色である。 店長に確認を頼むと、彼はそれを一回しして優しく振った。 「いいね、ちゃんと挿せてる。取れないと思うよ」 「よかったです……ありがとうございました」 こだわった作品が完成したことで、達成感が生まれた。 しかし、本番は明日。 「頑張ったね。すごくよくできてる」 「はい。ありがとうございます」 「明日、頑張れそうだね」 「はい」 私は店長からブーケを受け取り、大切に立て掛ける。 それから少しの間、眺めていると店長が「胡桃ちゃん」と、私を呼んだ。 「はい?」 店長に視線を向けると、彼の手には透明のラッピング袋がある。袋の中には薄緑色の尖った葉を持つエアプランツが覗いている。 「これ、僕からのプレゼント」 「……え?」 「胡桃ちゃんのものとは違うけど、これも“コットンキャンディ”でしょ」 たしかに店長が手にしているエアプランツはコットンキャンディという名前だ。 上手く育てると春にピンクの花を咲かせるのだが、とても可愛らしい。 今日は鉢の入荷日で、私は伝票に書き入れる作業を店長と治人さんに任せていたので、これが入荷したことを今、知った。 「……いいんですか?」 「うん」 「ありがとうございます」 私はその袋を手にする。 店長がどうして私に贈ったのかはわからない。 でもきっと、勇気づけてくれるためだろうと、勝手に理解する。
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