コットンキャンディ

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しかし一時間と少し経った頃、「ずっとここにいますけど……日本人ですか?」と、優君でないスーツ姿の男性に声をかけられた。 男性の見た目は日本人っぽく、その台詞も流暢な日本語のように聞こえたが、急に話しかけられたことと、異国の地であるためにひどく警戒した。 私の中で“危険”と認識し、足を後ろへ一歩後退させると、「違うかな?誰か待ってるの……かな?」と、続けて話しかけられる。 私は怖くて無言で彼から離れた。 それから、早足で会社の前から離れる。 会社の前で待つのは止めよう…… やはり彼の家に行こうと、思い直す。 彼の家までは彼の会社からとても近かったが、私が一度ビルから離れたために道に迷ってしまった。 周りに日本人がいないので、簡単に聞きにくい。しかも辺りは暗くなってきているため、怖い。 「どうしよう……」 頼りない呟きが出るが、助けてくれる人はいない。 もう会社までもわからなくなっていたが、ちょうど私の横にタクシーが停まった。 中にはお客が乗っていて、降りたところだったので、私は駆け出し「乗せてください……!」と、日本語で言った。 意味は通じないはずなのに、私の状態を見て旅行客だと思ったのだろう、車へ乗せてくれた。 しかし行き先を伝えられない。それでも待たせるわけにはいかないと咄嗟に思い付き、「I want to go here」と言って優君の家の住所の載った紙を見せた。 運転手は「All right」と言ったような感じがしたので、たぶん大丈夫だろうが、ドキドキしていた。 優君の家はタクシーに乗せてもらわなくてもよかったと思うくらいの近い場所にあった。 それでも一人ではたどり着けなかったわけであるから、タクシーに乗って正解だ。 慣れないお金のやり取りを終え、タクシーを降りると、「たぶん、ここだ……」と、言って彼の住むマンションを見上げた。
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