コットンキャンディ

15/27
前へ
/27ページ
次へ
それでも彼は私を中へ進ませて、ダイニングチェアに座らせる。 「ここにいて、すぐに戻るから」 私が小さく頷くと、彼は玄関へと消えた。 そこからは「ねぇ、あの人は……」と彼女の声がしたが、扉が閉まったので先はわからない。 きっと誰だと尋ねたのだろうけれど、彼はなんて答えるのだろう。 “元彼女”の私は膝の上に置いていたカゴを、そっとダイニングテーブルの上に置いた。 ブーケの状態を確認しようとしたが、それより先に彼の部屋の様子が気になり、見渡した。 ここは日本に住んでいた部屋より部屋数は少ないが、私の部屋より広い。 それにとても殺風景で、ものが少ない。昔の部屋も多いほうではなかったが、それ以上だ。 大きな家具もダイニングテーブルと、ベッドしかない。 昔使っていたローテーブルや私の服を置かせてもらっていたチェストもない。処分したのだろうか……私への気持ちと共に。   ベッドは正直あまりよく見てなかったので、触れてみなければ別のものかわからないが、カバーは同じ気がした。 ダイニングテーブルは彼の部屋になかったので、きっとこっちで揃えたのだろう。  まるで彼の心の変化みたい…… 私は苦しくなったが、それでもブーケの様子を確認するためカゴの中を覗いた。  ブーケの中の保冷剤は完全に溶けている。まだ中は冷たいが早く出してあげたい。それから彼に渡したい。 しかし彼はなかなか戻ってこない。 もしかすると、彼女と私のことでもめているのかもしれない。 彼にここで待っていて、と言われたが、私はじっとしておれず荷物はそのままに玄関に向かった。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

109人が本棚に入れています
本棚に追加