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それでも彼は私を中へ進ませて、ダイニングチェアに座らせる。
「ここにいて、すぐに戻るから」
私が小さく頷くと、彼は玄関へと消えた。
そこからは「ねぇ、あの人は……」と彼女の声がしたが、扉が閉まったので先はわからない。
きっと誰だと尋ねたのだろうけれど、彼はなんて答えるのだろう。
“元彼女”の私は膝の上に置いていたカゴを、そっとダイニングテーブルの上に置いた。
ブーケの状態を確認しようとしたが、それより先に彼の部屋の様子が気になり、見渡した。
ここは日本に住んでいた部屋より部屋数は少ないが、私の部屋より広い。
それにとても殺風景で、ものが少ない。昔の部屋も多いほうではなかったが、それ以上だ。
大きな家具もダイニングテーブルと、ベッドしかない。
昔使っていたローテーブルや私の服を置かせてもらっていたチェストもない。処分したのだろうか……私への気持ちと共に。
ベッドは正直あまりよく見てなかったので、触れてみなければ別のものかわからないが、カバーは同じ気がした。
ダイニングテーブルは彼の部屋になかったので、きっとこっちで揃えたのだろう。
まるで彼の心の変化みたい……
私は苦しくなったが、それでもブーケの様子を確認するためカゴの中を覗いた。
ブーケの中の保冷剤は完全に溶けている。まだ中は冷たいが早く出してあげたい。それから彼に渡したい。
しかし彼はなかなか戻ってこない。
もしかすると、彼女と私のことでもめているのかもしれない。
彼にここで待っていて、と言われたが、私はじっとしておれず荷物はそのままに玄関に向かった。
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